阪神高速道路では現在、防災対策の一環として地震発生時に高速道路の入口を遠隔で閉鎖する「入口遠隔閉鎖装置」の整備を進めている。2018年6月の大阪北部地震で、すべての入口を閉鎖するのに4時間程度かかったことが出発点だ。地震によって高速道路上に何らかの被害が発生すれば、お客さまの命に関わる事態を招く。一刻も速く入口を閉鎖し、点検を行って安全を確認したうえで、通行を再開させること。そのカギを握るのが遠隔操作だ。交通管制室からの操作で入口を閉鎖する、前例のないプロジェクトを担当した3人に話を聞いた。
「入口遠隔閉鎖装置」とはどんな装置ですか。
震度5強以上の地震が発生した際に、遠隔操作で高速道路の入口を閉鎖するための装置です。阪神高速全体を6地区に分け、各地区に設置した地震計が震度5強以上を示した場合に、交通管制室で遠隔操作を行い、該当地区の装置を作動させて入口を閉鎖します。
装置を作動させると、入口の車高制限装置(門構)にある高さ制限の標識(可変標識板)が通行止めの標識に変わり、赤いフラッシュライトが点滅します。
次に、通行止めマークの付いた黄色い仮閉鎖装置(閉鎖シート)が降りて注意喚起を徹底したうえで、車両進入を防止する通行止装置(遮断棒)を降ろします。
降ろす時は、各入口に取り付けた入口監視カメラの映像を確認しながら、1カ所ずつ遠隔で遮断棒を降ろしていきます。これは、遮断棒と車やバイクの接触を避けるためです。装置を作動させる際にも安全には最大限に配慮しています。
設置の経緯と目的を教えてください。
2018年6月18日午前7時58分に起きた大阪北部地震が始まりです。当時、大阪府内でも震度6弱が観測されましたが、阪神高速の地震対応として、阪神高速管内で震度5強以上の地震が起きた場合、道路構造物の状況確認点検を行う事を目的に、速やかに通行を禁止する運用としています。当時もすぐに高速道路の入口を閉めるオペレーションを開始しましたが機器の現地操作を1カ所ずつ行ったことから、最終的に全入口を閉鎖するまで4時間程度かかりました。高速道路上に大きな被害はなかったものの、地震に備えてこのオペレーションを改善すべきだ、という認識が社内で共有され、遠隔操作で入口を閉鎖する装置を開発することになりました。
プロジェクトはどのように進みましたか。
大阪北部地震の直後から検討を重ねておよそ半年で現在の入口遠隔閉鎖装置の骨子が固まり、整備に向けた具体的な検討を開始しました。問題発生から具体的なプロジェクト開始までが相当速いスピード感で進んだのですが、これは防災に対する阪神高速の強い思いの現れだと感じます。以降、入口遠隔閉鎖装置という前例のない装置を製造・設置するための詳細な検討が始まりました。実験を行い、装置として形になったのは2020年6月です。
実際に現地に整備される機器の検討にあたり、遠隔閉鎖するための動作を誰が、どういう責任のもとで、何を確認して行うか、というところが最も難しいポイントでした。
もともと入口の門構には通行止めにするための遮断棒が設置されていましたが、これをいきなり遠隔で降ろすわけにはいきません。安全に閉鎖するには、事前に遮断棒が降りることをお知らせする必要があり、フラッシュライトや閉鎖シートを設置することになりました。
前例のない装置ですから、まずはCGを使って車や構造物、閉鎖シートが降りてくるアニメーションを作成して方針を決めていきました。CGでイメージを固めた後は試作機を作り、実験をしながらより具体的な検討を進めていきました。
大阪北部地震発生から間もなく始まった入口遠隔閉鎖装置の検討。社内の関係部署はもちろん、警察などの交通管理者との協議も必要で調整先は多岐に渡った。各所からヒアリングを重ねて装置の仕様を検討する中、試作機を製作して実際の動きを確認する作業も欠かせなかった。
装置の仕様検討はどのように進みましたか。
仕様の検討が始まったのは2018年10月です。私は2019年7月から仕様検討を担当しましたが、その時すでに閉鎖シートやフラッシュライトなど基本的な要件は確認されていました。それを社内だけでなく、兵庫県警や大阪府警などの交通管理者の方にも機器に関する安全面についてヒアリングを行いました。どんなものが、実際にどう動くのか。装置がないと分からないという中で試作機の製作もスタートし、動き方や見え方を確認する中で改善点を探していった感じです。
今回の検討より以前から、高速道路の入口には遮断棒はもともと設置されていましたが、問題は閉鎖シートでした。
閉鎖シートの何が難しかったのですか。
地震発生時に遠隔操作する際は、6地区からエリアを特定してその地区の入口を一気に閉鎖したいと考えていました。これは安全が担保された状態で運用する必要があります。私たち道路管理者も、警察の方も、安全と言えるラインを示すのが困難な中で、さまざまな意見を聞いて仕様を決めていくのが難しかったです。
他社の事例も参考にしました。風船(エアー)型の装置をふくまらせて通行止めの表示を行う装置なども世の中には存在します。阪神高速では、遠隔操作を行う際には、より視認性が高く、通行する車に万一当たっても危険ではないという観点が重要でした。検討の結果、阪神高速では上から降りてくる閉鎖シートで通行止めを視認してもらうことになりました。
仕様で重視したことは何ですか。
閉鎖シートの色は注意喚起という意味で黄色がいいだろうと早い段階で決まっていました。素材は風の影響を受けにくくするため、当初はメッシュタイプを考えました。ところが、試作の閉鎖シートでは逆光の場合に視認性が悪くなり、閉鎖シート自体が見えにくくなくなることが作って初めて分かりました。結果的にはビニル樹脂と繊維を合わせたターポリンという素材を使用することになりました。
幅は当初1枚当たり0.7m程度のシートを組み合わせる想定でしたが、風の影響を受けるとねじれやすいことが分かり、1枚当たり1m〜1.5mの幅に変更しました。さらにシートの下部に重りを付けて風の影響を最小限に抑えるなど、試作機を作りながら改良していきました。高さは、視認しやすく、バイクとの接触を避けるという条件をクリアするために2.1mに。試作の段階で、関係者には実際に車の中から見てもらったりしました。そのほか、シートの昇降のスピードやマークの大きさなど、多くの関係者の意見を反映しています。
仕様決定までは早かったそうですね。
試作を始めてから仕様が決定するまではおよそ半年でした。通常、新しいものを作る場合は数年かけて検討するケースが少なくありませんが、入口遠隔閉鎖装置に関しては運用上問題になるポイントが絞られていたことや、各関係者の判断が速かったこともあり、早期の整備開始につながったと思います。
試作機の製作を踏まえ、最終的な仕様が定まったのは2020年6月です。前例がない装置の開発プロジェクトでしたが、課題に対する考え方や解決に向けた発想の持ち方など、とても印象に残っています。
前例のない入口遠隔閉鎖装置の仕様が決定した後は、詳細な設計が始まった。
設置には高速道路の入口にある門構を活用することとなったが、1カ所ずつ条件が異なっており、そもそも門構は装置の設置を前提としていない。どのように取り付けるのか。設計もまた試行錯誤の連続だった。
詳細設計はどのように進みましたか。
2019年12月に決定した仕様書をもと詳細な設計が始まりました。仕様書では、入口の門構に取り付ける閉鎖シートの幅は1枚当たり1m〜1.5m、通行止めマークのサイズは1.35m以上といったことが決まっており、こちらを基に実際に現地に設置する装置のサイズや取付方法を入口ごとに検討していきました。
担当部署と細かな詰めの作業をしながら詳細設計を完成させ、図面や仕様書、設計書などを取りまとめた「発注図書」を作り終えたのが半年後の2020年7月。それをもとに工事の受注者を募集し、11月に工事契約が成立しました。
設計上、特に苦労したことは何ですか。
装置を門構に取り付けるための検討に苦労しました。門構は大きく4つのタイプに分類でき、それぞれ梁や柱の形、部材の厚み等が異なるため、設置できる装置の荷重条件も異なっており、その条件をクリアできるような材質やサイズを、門構の照査を担当する部署と調整しながら考えました。
門構の幅が広くなれば閉鎖シートも大きくなり、重くなる。ドライバーの視認性を高めるために閉鎖シートはしっかり大きく取り付けたいが、重いものを取り付けることで門構本来の機能に支障をきたしてはいけない。門構はそもそも車高制限違反車両を物理的に止めるためのもので、後からこんな装置を設置することは想定していません。入口を閉鎖する装置としてこうでなければというところと、門構としてこうでなければというところのせめぎ合いがありました。
部署間の連携が不可欠だったのですね。
門構の照査部署には、門構のタイプごとに装置のサイズや重量を提示して詳細に検討してもらいましたが、検討には数カ月かかることもありました。こちらとしても、いろんなパターンを検討し条件提示することは大変でしたが、その条件をもとに1カ所1カ所問題がないかを確認していくのはそれ以上に大変だったと思います。
お客さまの安全を守るという共通する大きな目標はあったものの、無理なお願いをすることも多く、お互い衝突することもありましたが、細かな調整を繰り返した結果、形にすることができました。自分たちだけでは到底実現できないプロジェクトでした。
検討から仕様決定、詳細設計へと着実に進んだ入口遠隔閉鎖装置。2020年度には高速道路の入口への設置が始まった。しかし、各入口の門構は形状がそれぞれ異なり、設置工事では現場ごとに異なる対応が求められた。現場で初めて直面する課題も少なくなかった。
設置工事にはどのように関わりましたか。
2021年に入社してすぐ、まさに駆け出しのタイミングで、入口遠隔閉鎖装置設置工事の現場監督員を担当しました。装置については入社後に初めて知ったのですが、改めて阪神高速の防災意識の高さを感じました。
設置に関しては、担当の大阪地区工事では50カ所以上の入口に取り付ける装置でありながら、現場ごとに条件がまったく違う点が特殊でした。現場監督員として、工事を担当する受注者の皆さんと一つひとつの入口の現場条件を確認しながら進めていきました。
設置工事で難しかったことは何ですか。
装置を取り付ける門構やその周辺に設置されていた標識や看板、電気設備などとの調整です。設置の際にはそれらが支障物になるため、社内の関係部署に支障物の移設を依頼する必要がありました。何が支障になっているのか、どこに調整が必要なのか、どうすれば設置できるのかを一つずつ整理していくのが大変で、特に支障物の多い現場では苦労しました。
また、車両の衝突によって門構の梁が曲がってしまい、そのままでは装置を設置できない箇所もありました。そういった場合は、梁の補修や取り替えが必要になり、土木部署やグループ会社との調整にも時間がかかりました。変形がひどく、梁を丸ごと取り替える場合は、それだけで数カ月かかることもありました。
門構には現場ごとにさまざまな構造や条件があるため、着手するたびに新たな課題が現れるような状況で、既設構造物への後付け施工ならではの難しさを強く感じました。
その中で、土木・機械・電気それぞれの分野を担う部署が連携し、課題解決に取り組んだことが印象に残っています。実際に工事を行う受注者の方々も含め、入口遠隔閉鎖装置の設置は、多くの部署と人の協力によって成り立っている工事なのだと改めて実感しました。
特に印象に残っている現場はありますか。
入社して間もない頃に携わった湾岸線の工事現場です。複数の現場で試験調整を行う中で、実際の設置環境ならではの条件により、装置の動作確認に想定以上の時間を要する場面がありました。
装置自体は設計段階から試作・検証を重ねてきたものでしたが、現場では想定できていなかった環境影響等による不具合事案が発覚し、実環境で確認することの重要性を実感しました。その際は、受注者さんやメーカーの方々と密に連携しながら、状況確認や原因究明、対策の検討を進め、発注者の立場として調整を重ねました。
関係者の協力のもと、初めて立ち合った総合連動試験(交通管制室からの指令に応じて動作するかを確認する試験)で装置が想定通りに動作した瞬間は、本当にうれしかったですね。
現在はどのように関わっていますか。
工事が動いているときは、他職種の方々と定期的に調整会議を開いたり、現場でも受注者さんやグループ会社と毎月工程の確認をしたり、とにかく全体を巻き込んで調整に調整を重ねてきました。「いつまでに何カ所運用させるか」という目標をみんなで共有して、何とか完成させたいという思いで進めてきました。
2024年6月からは、今の部署で神戸地区の入口遠隔閉鎖装置設置工事の現場監督員をしています。担当する件数が増えるにつれて、「こういう場合はどこと調整すればいいか」「何をすべきか」がだんだん分かるようになってきました。施工は着々と進んでいて、2026年2月現在、87カ所(全地区合計)で運用されています。これからも現場で起きる問題を丁寧に解決しながら、計画通りに工事を進めていきたいと思っています。
2018年の大阪北部地震を教訓に、急ピッチで開発が進んだ入口遠隔閉鎖装置。高速道路の入口を遠隔で閉鎖するという前例のない装置は、試行錯誤の末に形になり、運用が始まっている。全国の道路会社からの問い合わせも続くこの装置には、阪神高速の技術力、チャレンジ精神、部署を横断するチームワーク、そして何より安全への強い思いが詰まっている。
入口遠隔閉鎖装置の今後への思いを教えてください。
地震はいつ起きるかわかりません。地震は起きないのが一番ですが、いざ起きてしまえば入口を閉鎖する等して、構造物の安全を確認する必要があります。震災時に危険な区間をお客さまが通行することがないよう、大阪北部地震で明らかになった課題を踏まえ、入口遠隔閉鎖装置の整備を進めています。いずれ起きると言われている震災時には、この入口遠隔閉鎖装置がしっかり役立ってほしいと思います。
また、人力に頼らずすみやかに入口を閉鎖して安全を確保するこの装置は、業界全体が抱える人手不足という課題にも一つの解決策を示していると思います。
阪神高速公式YouTubeには、パペットが登場して入口遠隔閉鎖装置について紹介している動画があります。地震発生時、高速道路が通行止めになることがある、阪神高速にはこうした装置が設置されているということを広く知ってもらうために、これからも情報発信を進めていく必要があると思っています。
装置に関しては、まだ設置が終わっていない入口への整備を進めることはもちろん、今後維持管理する中で出てくるであろう課題を踏まえ、装置を更新するタイミングでは、阪神高速ならではの安全装置として、さらに進化させたいと思っています。
今回のプロジェクトを振り返って、今思うことは何ですか。
入口遠隔閉鎖装置は現在も整備が続いていますが、地震発生からの課題認識、そこからの整備に向けた検討はとてもスピーディーでした。これは、阪神高速の各部門や、社外含め関係各所の皆様の協力があったからと思います。
阪神高速の技術力はもちろん、チームとしての実行力を今回の事業を通して感じました。自分自身もこの実行力を大切に、日々の課題に取り組んでいきたいと思っています。
詳細設計を担当した後、2021年からは谷岡さんと同じ部署で現場監督を担当しました。未設置の入口に対して、どこまで検討が進んでいるかを確認し、工事を軌道に乗せていきました。自ら設計したものを実際に現地に設置するところまで担当できたことで、設置する時に何が大変なのか改めて気づくこともありました。
さらに2024年に本社に異動した際は、入口遠隔閉鎖装置の基準化に取り組みました。設計と現場の経験を踏まえて、工事をするうえで守るべきルールを工事共通仕様書として整備する作業に取り組みました。新たな設備の検討から設置、基準化にまで関わることができたのは貴重な経験でした。大変なこともありましたが、学ぶことは多く、楽しさもあり、ありがたいことでした。
現場ごとに状況が本当に違っていて、当初の想定を超える課題が次々に出てきました。やはり現地に行ってみないと分からないことが多く、そのたびに関係部署と丁寧に調整しながら、構造側と機器側の両面から柔軟に対応していくことの大切さを実感しました。今もその姿勢を大事にしながら、整備に取り組んでいます。
現在は87カ所で運用されていますが、幸いにも稼働する事態は起きていません。この装置は「使われないまま」であることが一番ですが、万が一のときには確実に機能しなければなりません。これからも、適切な維持管理と災害に向けた準備をしっかり続けていきたいと思っています。
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