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誰もが安心して利用できる安全なトンネルをめざして(2/5)

炎強調システム誕生までの道のり① 安全のために、妥協はない。

「炎強調システム」の技術開発がスタートしたのは、平成27年の3月。ほぼ1年の時間を費やし、翌年3月には実用化にメドをつけた。「大和川第1トンネル」に設置・導入され、運用が始まったのは、さらにその10ヶ月後、阪神高速6号大和川線三宝~鉄砲間が供用開始された平成29年1月だった。その間、どんな物語があったのか、開発の経緯をたどってみよう。

専門メーカーとコラボ

技術開発がスタートするまでの経緯を教えてください。
建部

近年の新設路線はトンネルが多く、阪神高速では学識経験者を招いて委員会を立ち上げるなど、防災対策には特に力を入れて取り組んでいますが、私は大和川線に関わる以前にも「淀川左岸線」のトンネルで防災設備の設計と発注に関わった経験があり、さらに遡れば阪神高速で初めて「AA(ダブルエー)等級」の防災設備を備えたトンネルとして開通した阪神高速11号池田線の「伊丹トンネル」(平成7年供用開始)でも、その設計や発注に先駆けて設計基準を調査・策定する仕事に関わりました。そんな経緯もあって、トンネル防災について多少の知見があり「大和川線のトンネルに新しい機能を装備できないか」という話が持ち上がった時、炎を鮮明に映し出せるカメラのアイデアを提案しました。

AA等級

道路トンネルへの非常用施設の設置にあたっては、トンネルの総延長と交通量に応じて等級が区分され、等級に応じて必要な施設を国土交通省が定めている。「AA(ダブルエー)」、「A」、「B」、「C」、「D」という5つの等級があり、AA等級のトンネルは防災上、非常に重要なトンネルと位置付けられている。阪神高速では、阪神高速11号池田線「伊丹トンネル」が最初の「AA等級」のトンネルに分類された。

実際の技術開発は、どのように行なわれたのですか?
建部

基本的な考え方や開発の方向性、アイデアなどを私たちが提示し、試作や実験、データの収集・分析といった技術開発の実務は、外部の専門メーカーに協力いただきました。パートナーを務めていただいたメーカーは、業務用カメラの分野で実績があり、防災カメラの技術について、豊富な経験と知見をお持ちです。

その技術力に頼るところも、多分にあったわけですね。
建部

炎強調システムは、誰も考えつかなかったまったく新しい技術を必要としたわけではなく、すでに確立された防災カメラ技術をさらに進化発展させた延長上で考えられたもので、技術的・理論的には十分に実現可能だと私は確信を持っていました。ただ私たちはメーカーではない。ひとつのシステムとしてまとめ上げ、実用化できるかどうかは、メーカーの技術によるところも大きかったと思います。

大切なのは強い意志をもつこと

開発で最も難しかったのは、どういう点ですか?
建部

技術的には、どの波長に限定して光を通し、遮断すれば炎を大きく鮮明に映し出すことができるか、具体的な範囲を突き止める波長選定に多くの時間を要しました。言葉にすれば簡単なようですが、どの波長の範囲でカットすればいいか、部分的にカットすればいいのか、一定レベル以上の波長をすべてカットすればいいのか、まったく白紙の状態です。

最終的には「880~1100nm」の領域に限って遮断すれば、色の再現性は劣化しないことが確認されたのですが、それを見つけ出すためにさまざまな波長で実験し、データを集め、色の再現性を評価し、次の実験の方向性についての議論を、メーカーと何度も繰り返した記憶があります。

あきらめそうになったり、
投げ出したくなったことはなかったですか?
建部

色の再現性が最も高いベストなフィルター開発をめざして波長選定の実験を重ね、「あーでもない、こーでもない」と何ヶ月も試行錯誤を繰り返していた時は、正直いって何度も「もうこの辺で、十分だろう」という気持ちがありました。でもその一方で、「ここまできたんだから、納得いくまでやりたい」という気持ちもあって、その狭間で心が揺れ動いた記憶があります。あの時もし妥協していれば、今ほど鮮明な画像を映し出すことができたか分かりませんし、特許出願できたか分かりません。

新たな技術に挑戦する時、いちばん大事なことは、納得できるまでやり抜く強い意志と、最後まであきらめない粘り強さではないでしょうか
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