トップページ > 阪神高速のこだわりの技術 > 新交通管制システム「HI-TEX」(2/5)

事故リスクの診断機能は国内初。災害時のシステムダウンにも対応。

これまでなかった斬新な機能がいくつも盛り込まれた「HI-TEX」。先進技術によって阪神高速道路の交通管制システムは、飛躍的な進化を遂げた。ここでは注目技術として「事故リスクの情報提供」と「相互バックアップシステム」を取りあげ、さらに詳しく紹介する。

事故の可能性をコンピュータで算出
情報提供でドライバーに注意喚起

安全で安心な高速道路の実現は、それを運用する事業者の社会的使命でもある。阪神高速は、その責任を果たすために、過去のデータを徹底分析して、交通事故の削減をはかる技術の研究に長年取り組んできた。そのひとつの成果が、「HI-TEX」に新機能として導入された「事故リスク情報の提供」だ。

「事故リスク情報の提供」は、「ある区間で事故が起きる確率」を割り出し、リスクが高い場合に「事故多発区間/前方注意」「事故多発区間/車間保て」などの言葉で本線情報板に表示。ドライバーに注意を呼びかける。事故リスクに関する情報を道路情報板で発信する機能を持った交通管制システムは、国内でも他に例がない。

事故リスク情報の提供について

向井

「事故リスク情報の提供」は、「HI-TEX」の技術的ハイライトのひとつと思っています。“事故リスク”といっても、あまりピンと来ないかもしれませんが、事故が起こるリスクの高い危険な区間をピンポイントでとらえ、リアルタイムにお客さまに情報提供することで注意を呼びかけ、ルートの変更や安全走行などの行動変容をうながすのが目的です。また、事故リスク推定結果は、交通管制室のグラフィックパネルにも表示させる機能として追加しており、交通管制員による事故の早期発見に役立てています。

事故リスクの解析

天候が悪化したり、渋滞が起きると、事故が起こりやすくなる。その事故の起こりやすさを、「事故リスク」と呼ぶ。事故リスクは、カーブ・勾配などの道路線形、渋滞などの交通状況、天候に左右される。だが事故の発生要因と事故の起こりやすさがどう相関するのか、定量的な知見は得られていなかった。

阪神高速では、過去の事故案件と発生時の交通状況、天候などとの相関を分析し、「ポアソン回帰モデル」を用いて事故の起こりやすさを定量的に算出する「事故リスク算定モデル」を構築。この解析モデルをシステムに組み込み、道路線形や天候などのデータを入力してコンピュータで演算処理。特定区間で事故が起きる確率を数式として割り出す。

技術を構築する上で、難しかったことは?

向井

私は主に、コンピュータで事故の起こりやすさを計算するロジックの検討を担当しました。そこでは大きく分けて2つの難問がありました。ひとつは、事故が起きる確率をコンピュータで割り出す時、どの解析モデルを用いるのがベストかの検討です。ポアソン回帰分析(*)の理論を用いた解析モデルを使うのが正しいのか、それとも重回帰分析のような別の理論を用いるべきなのか。ワーキンググループでの議論は、最後の最後まで結論が持ち越されるほど、さまざまな意見が百出しました。
※ポアソン回帰分析:ランダムに起きる現象が、ある期間に何回起きるかの確率を割り出す時に用いる分布。

事故リスク情報の生成と提供の流れ

もうひとつは?

向井

コンピュータで割り出した計算値が、どのレベルに達した時に事故リスクとして情報発信するのが最適なのか、閾値(境界となる値)の設定や計算方法について議論した時も、結論が出るまでにとても長い時間がかかりました。事故リスク情報は、正確性を考えれば閾値を高めに設定して情報提供すべきですが、高く設定し過ぎると提供頻度は低くなります。またお客さまに事故リスクを伝え、行動変容を促すにはある程度の提供頻度が必要ですが、頻度が高いと広報情報と間違われる可能性もあります。バランスを考え、最適な閾値を決定するのは大変でした。

難しい判断を求められますね?

向井

道路情報板に表示する文言についても、議論になりました。「事故リスク」と表示しても、その意味がお客さまに正確に伝わるとは限らないですし、情報板で従前より使われている文言を使用すれば、「事故リスク」情報を元に提供していることが伝わりません。所管の警察や交通管制の現場で業務にあたる管制員の方とも意見調整を行ない、学識経験者の方からもアドバイスをいただきながら、ひとつひとつ問題解決していきました。

2カ所の管制室が相互バックアップ
災害にともなうリスクを回避

人びとの暮らしや経済活動を支える社会インフラとして、高速道路はたとえわずかな時間でも機能停止に陥ることは許されない。今後起こりうる災害にいかに備えるかも、高速道路会社にとって重要な課題だ。

「HI-TEX」で新たに導入された「相互バックアップシステム」は、阪神高速の道路ネットワークの機能中枢ともいうべき交通管制室が大規模な災害でダメージを受けても管制業務を遅滞させることなく継続させ、高速道路を安定的に運用するためのしくみだ。

「相互バックアップシステム」について、教えてください。

樽岡

阪神高速道路は、大阪(朝潮橋)と神戸(京橋)の2カ所に交通管制センターを置き、それぞれ地区単位で交通管制システムの運用を行なっていました。そのため災害によって万が一いずれかのセンターにあるシステムがダウンすると、そのセンターが管轄するエリアの管制業務が完全にストップし、阪神高速全体が機能不全に陥ってしまう恐れがありました。そこで新たに導入されたのが、「相互バックアップシステム」です。

「相互バックアップシステム」では、地震や大津波などの大規模災害が起き、2カ所のセンターのいずれかが被災した場合、もう片方のセンターで全エリアの管制業務を行なうことができます。これによって大規模災害により道路ネットワークが機能不全に陥るリスクは、大幅に軽減されました。

大規模災害が起こる可能性も指摘されているだけに、頼もしい存在ですね。

樽岡

近い将来、南海トラフ地震のような大規模な災害が起きて片方の交通管制システムが機能不全に陥っても、全エリアの監視や交通流の制御を管理できない状態になる事態を、これによって防ぐことができます。「相互バックアップシステム」は、BCP(*)の観点から見ても、エポックメークな技術だと思っています。
*BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画):災害などの緊急事態が発生した時に、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧をはかるための計画

ページトップへ