トップページ > 技術・工法ライブラリー > 建設技術 > 橋梁 > 耐震性能の向上・コスト縮減・工期短縮の全てを実現!被災経験を乗り越えて誕生した「鋼管集成橋脚」
建設技術
イメージ 耐震性能の向上・コスト縮減・工期短縮の全てを実現!被災経験を乗り越えて誕生した「鋼管集成橋脚」
橋梁|鋼橋

耐震性能の向上・コスト縮減・工期短縮の全てを実現!被災経験を乗り越えて誕生した「鋼管集成橋脚」

建設場所
淀川左岸線Ⅰ期 海老江ジャンクション
キーワード
損傷制御設計、鋼管集成橋脚、せん断パネル、コスト縮減

鋼管集成橋脚は耐震性能の向上、大規模地震発生時の早期復旧、コスト縮減および工期短縮を目的に開発された新しい鋼製橋脚です。

この橋脚は写真-1に示すように、4本の鋼管と複数段の横つなぎ材で構成しています。大規模地震発生時には横つなぎ材をわざと損傷させることで、地震エネルギーを吸収し、橋脚の揺れを制御することができます。この設計手法を損傷制御設計といいます。大規模地震発生時に損傷するのは横つなぎ材のみであるため、復旧時には横つなぎ材さえ取り替えれば元通りの形状に戻すことができます。

さらに、既成品である鋼管を主部材とするため、コストを縮減することができるほか、橋脚の製作・架設にかかる期間を短縮することができます。

このように様々なメリットがある鋼管集成橋脚は平成25年5月に完成した淀川左岸線Ⅰ期海老江ジャンクションで採用しました。

img_11103_21.jpg

鋼管集成橋脚の構造

鋼管集成橋脚は、図-1に示すように複数本の既製鋼管柱を、履歴型ダンパー機能を有する横つなぎ材で連結して橋脚とした構造です。本構造は、死荷重や活荷重などの鉛直荷重を主部材である鋼管柱で受け持ち、地震力などの水平荷重を二次部材である横つなぎ材で抵抗する機構を有しています。横つなぎ材に低降伏点鋼材などのせん断パネルを用い、地震時にせん断パネルを損傷させることによりエネルギー吸収を図ることができます。さらに地震時損傷を横つなぎ材に集約することにより、地震後の修復性の向上が期待できる新しい橋脚構造です。

img_11103_12.jpg

これまで、本構造を対象とした動的応答解析(図-2)の結果、損傷制御設計の考え方により、せん断パネルでエネルギー吸収を図り、鋼管の損傷が抑制されるとともに、従来構造と同等の耐震性能を有していること、また頭部応答変位が低減されることが明らかにされています1)

また、動的解析による設計手法の検証を目的とした1/5縮尺模型試験が実施され、横つなぎ材段数によりエネルギー吸収性能が向上することが実証されるとともに、設計手法の妥当性が検証されています2)

さらには、せん断パネルでエネルギー吸収を図る上で重要である鋼管柱と横つなぎ材の接続構造を対象とした模型試験(写真-2)による性能評価についても実施されています3)

これらの既往の検討により、本構造形式の構造成立性、ならびに設計コンセプトの妥当性が確認されたといえます。

img_11103_13.jpg

製作時の工夫

鋼管集成橋脚は、過去に経験したことのない構造であったため、製作性について、事前検証が必要でした。

(1) 三次元CADによる製作性の検証

橋脚柱部は構造を簡素化できましたが、上部工との剛結部は、相対的に複雑な構造となったため、三次元CAD(図-3)により、製作性の確認を実施しました。

img_11103_14.jpg

(2) 実物大模型による溶接施工性の検証

製作性の検証の結果、狭隘箇所における製作・施工性を確認するため、実物大の模型(写真-3)を制作し、実際の溶接作業者を交え、溶接施工性を検証(写真-4)しました。

img_11103_15.jpg

(3) 製作精度管理

製鋼工場で製作される既製鋼管杭の精度は、鋼製橋脚のブロックとしてそのまま適用するには、ばらつきが大きいといえます。例えば、JISで規定される許容長さは、設計長さに対して「0~+側 規定なし」となっているので、橋脚のブロック長で求められる精度は満足できません。そこで本工事は、鋼管に取り付く横つなぎ材位置を鋼管毎に調整し、橋脚全体を一体で仮組立(写真-5)することで架設に必要な柱全長や柱間隔および横つなぎ材の精度を確保しました。

img_11103_16.jpg

架設概要

(1) 基部の架設

本橋脚は、高さ方向に基部、3段の一般部、上部構造との剛結部の5ブロックに分かれています。鋼管集成橋脚は、アンカーフレームを用いないため、基部の鋼管における架設精度が、橋脚全体の出来形精度に大きく影響します。鋼管基部を剛結するケーソンの頂版コンクリート打設時に、側圧で移動しないような仮設備が必要となり、本工事では、基部にクロス方向の形状保持材を設置(写真-6)することで平面の組立精度を確保するとともに、下部工の鉄筋を回避した位置にジャッキ用補強材を設け、高さ方向の調整も可能な構造としました。

img_11103_17.jpg

(2) 一般部、上部構造剛結部の架設

一般部の架設は、1段ごとに4本の鋼管を地組して一括架設する方法や高さ方向に地組して架設する方法等も考えられますが、本工事では、写真-7に示すように鋼管単体での架設を行いました。上部工剛結部についても重量制限で4ブロックに分割されていたため、単ブロック毎に架設しました。

img_11103_18.jpg
関連資料

1) 金治 英貞,鈴木 英之,野中 哲也,馬越 一也:履歴型ダンパー付鋼管集成橋脚の損傷制御構造に関する基礎的研究,土木学会構造工学論文集,Vol.50A,2004.

2) 金治 英貞,米谷 作記子,林 訓裕,豊島 径,西海 健二:鋼管集成橋脚の縮小モデル載荷試験による力学的特性と設計妥当性の検討,土木学会構造工学論文集,第13巻第49号,2006.

3) 西海 健二,豊島 径,金治 英貞,林 訓裕:鋼管集成橋脚における接続部のエネルギー吸収性能に関する実験的研究,第9回地震時保有水平体力法に基づく橋梁等構造の耐震設計に関するシンポジウム講演論文集,2006.