港町の歴史が育んだ神戸の洋食文化

今年開港150周年を迎えた神戸は、函館・横浜・長崎などと同様に当初から多くの外国人で賑わいました。しかし、神戸は他の港と異なり、居留地だけでなく、市中にも外国人が住み、日本人と交流を深めたことからハイカラな洋食文化が、より根付いたと考えられます。また、農作業用に飼育されていた但馬牛を食べた一人の外国人が、その味を賞賛し、後に神戸ビーフとして世界中にその名を轟かせることとなります。さらに、開港と同時に初代兵庫県知事に就任した伊藤博文も大の肉好きだったと伝えられますから、神戸と洋食の縁は深遠です。

日本国内はもとより、海外からの観光客もおいしい洋食を目当てに訪れる神戸。そこで、神戸っ子に愛され続ける老舗洋食店と人気の看板メニューをご紹介します。

「伊藤グリル」は、現店主 伊藤享治さんの祖父にあたる寛氏が大正12年（1923）に創業した神戸を代表する洋食店です。外国航路のコックや英国の名門ホテルで修行を積んだ寛氏がテーブル3つからスタートした店は、瞬く間に外国人や貿易関係者が通う名店となりました。戦時中は休業を余儀なくされますが、終戦後は南京町に移転し、初代から伝わるビーフシチューと3代目店主 忠氏が考案した炭火焼きステーキを2本柱に、食通の舌を魅了し続けています。

かつて神戸で最も活気のあった繁華街新開地に昭和27年（1952）に開店した「グリル一平」。普段はオムライスやハイシライス、記念日や商用、友人を招いた時には"行きつけのいい店"としてステーキやビーフカツ、有頭海老フライなどのご馳走が食べられる幅広いメニューで地元の人たちに愛され続けてきました。阪神淡路大震災で店舗が全壊、閉店を覚悟した時も、常連客が仮設店舗を建て、営業再開に導いたといいますから、まさに地元が誇る老舗洋食店です。